緊急提言

提言1  科学的論拠と合意形成にもとづいた社会基盤整備の推進
提言2  地球温暖化対策への建設分野からの具体的取り組み
日本学術会議 土木工学・建築学委員会 委員長 濱田政則
社団法人土木学会 会長 近藤徹
社団法人地盤工学会 会長 浅岡顕
社団法人日本コンクリート工学協会 会長 阪田憲次

提言1.科学的論拠と合意形成にもとづいた社会基盤整備の推進

最近、社会基盤整備のあり方について、社会的、政治的に混乱が生じていると考えます。「コンクリートから人へ」の真意は、人間重視の社会基盤整備、国民目線の社会基盤整備を指向していると理解しています。地球規模で自然環境が悪化し、将来的に災害の多発が危惧されているとともに、わが国は人口減少と国際競争の激化という環境下に置かれていますが、社会基盤はまだ極めて貧弱です。このような状況下において持続的、かつ安全・安心で豊かな社会を創出するためには、社会基盤整備の必要性を科学的に検討し、この結果を分り易い形で国民に説明して、広く合意形成を図ることが益々重要になっていると考えます。

1−1.災害に対して安全な社会基盤整備:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次報告によれば、緩和策を含む種々のシナリオにおいて今世紀末までに世界の平均気温は1.1〜6.4°C上昇し、集中豪雨と渇水が頻発するといわれています1)。さらに巨大地震発生の逼迫などわが国は自然災害の大きな脅威の中にあります。一方、大都市圏への過度の集中と地方の急激な過疎化および高齢化、核家族化などが自然災害に対する社会の脆弱性を著しく増大させています。気候変動による降雨や、地震災害を科学的に予測するための研究は進展しつつありますが、予測精度をさらに向上させ、その予測結果にもとづいて災害軽減対策を講じるためには、都市計画、土地利用計画、交通システム等とも連携した防災システムの研究と整備が必要です。日本学術会議では、以上のような自然環境の変化と、国土構造および社会構造の脆弱化に対し、「短期的な経済効率重視の視点」から「安全・安心社会の構築」を最重要課題としたパラダイムの変換と、これにもとづいた社会基盤整備の必要性を提言して来ております1)

1-2. 人口減少下の社会基盤整備:人口減少下のわが国が、グローバルエコノミーのもとで持続的な繁栄を続けるためには、世界の人材と産業を引き付けるだけの魅力に満ちた、国際競争力を有する環境を整備する必要があります。このような新たな視点からハブ空港・港湾、安全で効率的な交通・通信基盤整備などの社会基盤の整備を行う必要があります。

1−3.大規模公共工事の中止や見直しによる影響の検証と地域ガバナンスの推進:大規模公共事業の中止や見直しにあたっては、現世代のみならず次世代の災害に対する安全性、国際競争力の確保などの視点での科学的検証が必要と考えます。特に中止する場合には、地域社会の市民生活、環境と経済への影響、および代替措置の実現可能性と有効性を検討して地域振興に配慮したソフトランディングのための体制と仕組みを、国民・自治体・国が協同で参画した形で整えることが必要です。人間重視の社会基盤整備の実現には、地域ガバナンスの推進とそのための制度を整備することが必要です。

1−4.「コンクリートから人へ」の標語の影響への配慮:「コンクリートから人へ」の標語は人間社会にとって必要不可欠な材料であるコンクリートに不適切なイメージを形成し、建設分野を志望する人材の育成にも影響を与えかねない点を危惧しております。この標語の趣旨は前述のように「人間重視の社会基盤整備」と考えます。人間重視の社会基盤整備にあたっては、建設分野のみならず国を挙げての取り組みが必要です。

提言2.地球温暖化の緩和策に向けた建設分野からの具体的取り組み

地球温暖化対策として適応策とともに重要な緩和策に関して、政府は「CO2等排出量について、2020
年までに25%減(1990年比)、2050年までに60%超減(同前)を目標とする」ことを国際的に宣言しました。その実現のためには、各産業分野、民生分野など総合的な取り組みが必要となると考えます。建設分野からは以下の点を提言します。

2−1.CO2等排出量削減に向けた研究開発および環境と経済を両立させるための誘導施策:日本学術会議では平成17年に日本の科学技術政策の要諦として「環境と経済の両立」の具現化を提言しました2)。環境と経済の両立のための研究開発の促進とその成果の普及、産業経済における先導的施策の展開を推進することが求められます。また、CO2等排出量の削減のためには、科学的な検証にもとづいた適切な政策の推進が必要と考えます。

2−2.国土計画および交通・運輸計画からのCO2等排出量削減:低炭素社会構築に向けた国土計画、運輸・交通ネットワークの整備が不可欠と考えます。人口の地方分散、国土の大部分を占める森林の活用と管理、都市と農村の人・物・情報の交流による地域運営が成り立つための制度整備が求められます。

2-3. 建設分野のCO2等排出量削減:建設分野のCO2排出量は、日本の総CO2排出量の約20%を占めています。その大部分は建設材料の使用など間接的なものでありますが、社会基盤や建築物のライフサイクルを通してCO2排出量を削減する必要があり、構造物の長寿命化のための技術開発と建設事業におけるCO2排出量を照査・評価する新たな評価システムの導入が必要と考えます。

2−4.温暖化対策技術の海外支援:ODA等海外援助の事業においては建設分野が大きな比重を占めております。社会基盤整備や防災・環境対策に関する技術協力とともに、温室効果ガス削減に関するわが国の技術や知見を海外援助の建設事業に積極的に活用し、発展途上国におけるCO2排出量削減に貢献する必要があります。

1)日本学術会議、答申『地球規模の自然災害の増大に対する安全・安心社会の構築』、平成19年5月
2)日本学術会議、声明『日本の科学技術政策の要諦』、平成17年4月

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