危急存亡状態のコンクリート構造物
対応委員会



 
委員会設立主旨

 長崎市にある端島(通称、軍艦島)には、大正5年に国内初の高層鉄筋コンクリート造集合住宅である30号棟が建設された後、集合住宅や公共施設を含めて70棟を超えるRC造建築物が昭和39年まで建設されてきた。最盛期には人口が5000人を超え、高密度な住環境を有する島となったが、国の石炭から石油へのエネルギー政策の転換により、昭和49年の閉山後は無人島となってはいるが、RC造建築物は現在も残存している。しかしながら、端島は非常に厳しい塩害環境下にあるため、鉄筋の腐食が過度に進み、供用が不可能な状態となり構造安全性も問題視されるRC造建築物も少なからず生じてきている。
 そのような状況下において、2014年10月に端島全体が国の史跡指定を受けるとともに、2015年7月には世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産として端島の炭鉱施設が登録されたため、史跡でありかつ世界文化遺産を支援する建造物として、激しく劣化したRC造建築物の保存対策が課題となっていた。このような背景の下、2015年6月、長崎市より日本コンクリート工学会に対して、研究委託がなされ、研究委員会の傘下に「供用不可まで劣化破損が進行したコンクリート構造物の補修・補強工法に関する研究委員会」(以下、「端島補修・補強研究委員会」)を設置して、更なる劣化防止および倒壊防止を目的とした補修方法および補強方法、ならびにそれらの施工方法について検討を行ってきた。
 端島補修・補強研究委員会では、廃墟感が漂う状態にまで劣化破損が進行した前例のない鉄筋コンクリート構造物を、廃墟感をできる限り維持した状態で修復し、半永続的に保存していくための技術的・経済的に合理的な補修方法を追求することを目的として、2016年10月、端島の自然環境を利用して様々な補修を施した試験体を暴露するという共通試験を開始したところである。また、最近の現地視察の結果、補修工事・補強工事の実施に多大な危険が伴うため放置せざるを得ず自然倒壊が間近に迫っている建築物が存在しているが、劣化に起因する鉄筋コンクリート構造物の自然倒壊は希有な現象であり、その過程を検討することは構造工学および材料工学の発展に必ずや繋がるものと考えられる。

 端島に暴露した様々な補修を施した試験体を対象に、定期的に劣化の進行状況および物理的・化学的な変化を観察・測定・分析し、塩害劣化の進行・抑制のメカニズムおよび各補修の効果を明らかにするとともに、端島に残存する自然倒壊が間近に迫っている建築物を対象とした遠隔地モニタリングの結果から、自然倒壊の過程を詳細に記録・分析・解析して自然倒壊メカニズムを明らかにすることは、端島に残存する建築物群に対して最適な補修方法・補強方法を見出すことに繋がるだけでなく、コンクリート工学の将来の発展にも多大に寄与するものと考えられる。
 そこで、調査・研究活動を実施して上記の目的を達成するために、日本コンクリート工学会・技術委員会の傘下に「危急存亡状態のコンクリート構造物対応委員会」を設置した。


 
 
活動計画

本委員会では、以下の2つの分野に分かれて活動を実施することとする。

(1)共通試験における劣化現象の観察・測定・分析
 共通試験WGを設置し、自然環境データを取得するとともに、年に1〜2回程度(春、秋)端島に上陸して試験体の観察・測定・分析を実施し、塩害劣化の進行・抑制のメカニズムおよび各補修の効果を明らかにする。

(2)建築物の自然倒壊のモニタリング
 モニタリングWGを設置し、定点カメラやGPS発信機を設置して実施される遠隔地モニタリングの結果を踏まえて、年に1〜2回程度(春、秋)端島に上陸して定期的に建築物の変形等の測定を行い、自然倒壊メカニズムを明らかにする。

 共通試験およびモニタリングで得られた成果については、定期的に長崎市に報告することとし、共通試験で得られた成果については、会員内外に適宜公開するものとする。

 委員会設置期間は2017年4月より2年間とする(ただし、状況に応じて2026年10月まで延長する可能性あり)。


(c)危急存亡状態のコンクリート構造物対応委員会