日本コンクリート工学会

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2015年12月号

混和剤について

 コンクリートを構成する主な材料は,セメント,粗骨材(砂利など),細骨材(砂など),および水ですが,この他にも,目的に合わせて混和材料が使用されます。混和材料は,混和材と混和剤に大別され,混和材は,使用量が比較的多く,その容積がカウントされるもの,混和剤は,使用量が少なく,薬品的な使い方をするものを指しますが,最近では,両者を明確に区別するために混和剤を化学混和剤と呼ぶこともあります。ここでは,化学混和剤について概説します。
 本文で使用している用語については,こちらを参照してください1)

コンクリートの構成材料 img

(執筆者:小川秀男 コンクリート用化学混和剤協会,BASFジャパン株式会社)


1.混和剤の歴史

 コンクリートの起源は, 2000~3000年前の古代ローマ時代とするもの,5000年ほど前の中国とするもの,あるいは,9000年のイスラエルとするもの2)など諸説あるそうです。
 混和剤も,古代ローマ時代に,目的は明確ではありませんが「獣血やその脂」,「乳」などを混和していたといわれています。しかし,今日のような化学混和剤は,1932年アメリカで松ヤニを主成分とするAE剤が使用されたことが始まりとされています。また,製紙工場の亜硫酸パルプ排液を精製したリグニンスルホン酸塩が,コンクリートのワーカビリティーや耐久性の向上に有効であることが確認され,1937年,E.W.Scriptureによってアメリカ特許が取得されました。
 日本では,第二次世界大戦後の1948年にAE剤が,1950年代初頭にリグニンスルホン酸塩やオキシカルボン酸塩を主成分とする化学混和剤の技術がアメリカより導入されたのが始まりといえるでしょう。なお,1912年(明治45年)に完成した京都市蹴上浄水場にあった沈殿池導流壁のコンクリートの調査結果から,このコンクリートにはミョウバン溶液と石鹸溶液が使用されていることが判明し,京都市水道要誌(1926年)に,これらが防水性を得るために用いられたと説明されているそうです3)
 ローマコンクリートについては,土木学会から「古代ローマコンクリート ソンマ・ヴェスヴィアーナ遺跡から発掘されたコンクリートの調査と分析」が発刊されています。

2.化学混和剤の使用目的

 化学混和剤は,「主として,その界面活性作用によって,コンクリートの諸性質を改善するために用いる混和剤」とJISに定義されています。表1に界面活性剤の作用と化学混和剤の種類を示します。ここでいうコンクリートの諸性質とは,例えばフレッシュコンクリートでは,ワーカビリティー,プラスチシティー,ポンプ圧送性,フィニシャビリティーなどを指し,硬化コンクリートでは,強度,耐久性,水密性などを指しますが,化学混和剤はこれらの諸性質を経済的に改良,改善することができます。(それぞれの用語は,先の「コンクリート用語」を参照してください。)

表1 界面活性剤の作用と化学混和剤の種類 4)表1 界面活性剤の作用と化学混和剤の種類 img

3.化学混和剤が使用される理由

3.1 AE剤
 コンクリート中の気泡は,言い換えれば空隙なので,コンクリートの強度を低下させます。その程度は,空気量1%増加に対し,圧縮強度は4%程度低下します。AE剤は,コンクリート中に気泡を導入する薬剤なので,これを使用すれば,圧縮強度の面ではマイナスに働きます。ところが,AE剤によって導入される10~300μm程度の微細な空気泡(エントレインドエア:Entrained Airといいます)は,ボールベアリングのような働きで,コンクリートのワーカビリティーを大幅に改善します。また,硬化コンクリート中の微細な空気泡は,コンクリート中の水の凍結に伴う膨張圧を緩衝させる役割を果たし,凍結融解抵抗性を飛躍的に向上させます(AE剤の誕生に関係します)。
 なお,混和剤を用いないコンクリート(プレーンコンクリートといいます)でも,練混ぜ時の物理的作用で,1~2%程度の気泡を含みます。これを,エントラップドエア:Entrapped airといいますが,エントレインドエアのような作用はありません。

3.2 減水剤(減水剤,AE減水剤,高性能減水剤,高性能AE減水剤)
 良いコンクリートの条件のひとつに,「一般には,作業に適するワーカビリティーを有する範囲内で単位水量をできるだけ少なくするのがよい」とされています。実際に,単位水量の上限値を,建築工事においては,185kg/m以下,土木工事においては,175kg/m以下にするようにといった指針が示されていますが,減水性を持つ化学混和剤を使用することによって,ワーカビリティーを損なうことなく単位水量を減らすことができます。
 硬化したコンクリートの諸性質の多くは,粗骨材・細骨材をつなぐ糊の役割を果たすセメントペースト(セメント+水)の濃度に関係しています。単位セメント量を一定にして化学混和剤を使用すれば,糊の濃度を濃くすることができ,高い強度や緻密性が得られます。一方,糊の濃度を一定にして減水剤を使用すれば,単位セメント量を減らすことができます。
 また,天然骨材が枯渇した現在では,単位水量を多く必要とする砕石や砕砂を使用せざるをえず,先述の上限値を確保するためにも,化学混和剤が利用されます。

3.3標準形,遅延形,促進形
 JIS A 6204では,(AE)減水剤などに,「標準形」,「遅延形」,「促進形」が規定されています。これは,化学混和剤の持つ界面活性作用ではなく,セメントの水和反応のコントロール作用に関係しています。コンクリートは,セメントの水和反応によって硬化します。水和反応は化学反応であって,化学反応は温度が高いほど早く進行します。したがって,夏期は硬化が早く,冬期は硬化が遅くなります。これを受けて「暑中コンクリート」,「寒中コンクリート」といった特別な配(調)合および施工への配慮が必要となり,それらに対応するために,化学混和剤もタイプが設定されています。

3.4 高性能AE減水剤
 高性能AE減水剤が開発されてから20年以上になります。この間,高流動コンクリート,高強度コンクリートが開発され,高性能AE減水剤が必要不可欠な存在となっています。最近では,100MPa 超えるような,あるいは水セメント比が15%を下回るような(写真1参照)超高強度コンクリートの現場打設が行われ,超高層建築物の建設などに使用されています。

化学混和剤なし img
化学混和剤なし
化学混和剤あり img
化学混和剤あり
写真1 W/C=15%のセメントペーストの流動性

 高性能AE減水剤に関する性能や作用メカニズムなどについては,多くの解説書がありますので,ここでは割愛しますが,例えば,こちらを参照してください5)

図1 ポリカルボン酸の構造の一例 img
図1 ポリカルボン酸の構造の一例

 高性能AE減水剤の発展の背景には,その素材となるポリカルボン酸の誕生が不可欠でした。ポリカルボン酸は,分子内にカルボキシル基(-COOH)もつ物質の総称ですが,化学混和剤で使用されるポリカルボン酸は,おおよそ図1に示すような櫛形の構造をしています。しかし,その構造は,単一なものではなく,ほぼ無限大のバリエーションを持っています。これは,主鎖の構成成分,側鎖の長さ,その長短の組合せなどをほぼ自由に選択できるからです。
 バリエーションという点では,それまでのメラミンスルホン酸塩,ナフタレンスルホン酸塩といった分散成分とは全く異なると言ってもよいでしょう。また,そのバリエーションのお蔭で,ポリカルボン酸塩系の高性能AE減水剤は,流動性を保持する性能も具備することが可能となりました。

4.その他の混和剤

 ここまで,JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」に規定されている化学混和剤を中心に概説して来ましたが,表2に示すように,これ以外にも様々な特性をもった混和剤がありますので,その内,いくつかを紹介します。

写真2 水中不分離性コンクリート(左) img
写真2 水中不分離性コンクリート(左)

 水中不分離性混和剤は,水中に打設するコンクリートに使用されます。写真2に示すように,混和剤に配合されたセルローズエーテルやアクリル酸のような水溶性高分子の増粘効果により,水中不分離性コンクリートは,水中でもセメントペーストの流失が見られません。また,流動性も非常に高いので,振動締固めを行わなくても施工が可能です。
 水和熱抑制剤は,セメントの水和発熱を抑制し,温度上昇速度と温度上昇量を減少させ,マスコンクリートなどに使用されます。成分としては,尿素のように水に溶解する時に吸熱する物質や,常温では難溶性のデキストリンなどが用いられています。後者は、デキストリンによる凝結遅延作用が徐々に進行することによって,あたかも遅延剤の時間差添加のような働きをします。

表2 JIS A 6204以外の混和剤表2 JIS A 6204以外の混和剤 img

5.終わりに

 コンクリート用化学混和剤協会も,日本コンクリート工学会と同様に,2015年に設立50周年を迎えました。震災復興,国土強靭化対策,インフラの老朽化,人材不足など我が国のコンクリートを取り巻く環境は,決して穏穏たるものとは言えませんが,化学混和剤が,技術の向上含めて,お役に立てればと思います。

番外編〔AE剤の誕生〕
1930年代に入って,アメリカでは自動車走行による舗装の破損が著しく,とくに北部地方の冬期の破損が大問題になっていたといいます。ところが偶然の機会にニューヨーク州で,ポルトランドセメント6に天然セメント1の割合で混合したセメントを使って打設したコンクリートが凍結融解に対して著しい耐久性を示すことが見出されました。調査の結果,この天然セメントを製造する際に,粉砕助剤として脂肪酸や油類が使用されていることが明らかになり,これら油脂の類似物として,松ヤニなどがテストされ,これが現在のAE剤を生み出す基となったといいます3)
松ヤニの主成分は,アビエチン酸などのように,分子内にカルボキシル基(-COOH)を有しています。これが,アルカリと反応すると,石鹸ができます。使い古した家庭用天ぷら油にアルカリ(水酸化ナトリウム:NaOHや,水酸化カリウム:KOH)を加えて,加熱することによって石鹸ができるのと同じです。粉砕助剤として添加された脂肪酸(カルボン酸の一種)が,セメントのアルカリ成分と反応し,石鹸ができたために,コンクリートに気泡が導入され,凍結融解抵抗性が向上したと考えられます。

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図2 界面活性剤の基本構造 img
図2 界面活性剤の基本構造

番外編〔界面活性剤〕
界面活性剤は,「少量で,表面または界面の諸性質(乳化,可溶化,分散,濡れ等)を著しく変化させる物質」と定義されています。界面活性剤は,図2に示すように,分子内に水になじみやすい部分(親水基)と,油になじみやすい部分(親油基・疎水基)を持っています。
なお,均一な気体,液体,固体の相が他の均一な相に接するとき,その境界を界面といいます。また,これらの界面のうち,一方の相が気体(もしくは真空)の場合,界面を特に表面と呼び,内部とは異なる特異な性質や現象がみられます。

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番外編〔-phobicと-philic〕
Hydrophobia は,狂犬病のことで,これは,水などを恐れるようになる特徴的な症状があるためです。一方,philの入った単語としてPhilharmonie:フィルハーモニーがあります。これは,「調和を愛する」が原義のドイツ語です。英語ではPhilharmonicです。

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番外編〔水の特殊性〕
最も身近な液体である水は,実は,特殊な性質を持っています。水の分子は,図3に示すように,水素原子2個と酸素原子1個からなっています。酸素は,電気陰性度(分子内の原子が電子を引き寄せる強さ)が高いので,水の分子は電気的極性を持っています。これにより,水分子同士が電気的な結合(水素結合)で結ばれています。

図3 水の分子 img
図3 水の分子

表3は,比較的身近にある物質の物性値を示したものです。
近似する物質を比較すると,分子量が高いほど,沸点や表面張力が高い傾向が見られます。また,水は,分子量が小さいにも関わらず,沸点も表面張力も高いことが分かります。このような性質を示す原因は,水分子が水素結合で結ばれていることによります。

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表3 身近にある物質の物性値表3 身近にある物質の物性値 img

図4 表面張力の原理 img
図4 表面張力の原理6)

番外編〔水の表面張力〕
水の表面張力が比較的高い原因は,図4に示す分子間引力が,水素結合により他の物質より高いことによります。コップに水を静かに注いだ時,コップの縁より水面が盛り上っても,こぼれない現象を見ることができますが,これは,水の表面張力に起因します。
水に,界面活性剤を添加すると,界面活性剤は空気に対して疎水基を向け,水中に親水基を向けて並びます。これによって,界面活性剤水溶液の表面張力は水より低くなります。
家庭用食器洗剤のテレビコマーシャルで,水に浮いた油の中央に洗剤を垂らすと,油が弾かれたようにドーナツ状に拡がる映像を見ることがあります。これは,食器洗剤に含まれている界面活性剤が,滴下された部分の表面張力を低下させるので,張力の差が生じ,油の周囲にある表面張力の高い水に引っ張られるからです。(図5参照)

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図5 食器洗剤のテレビコマーシャル img
図5 食器洗剤のテレビコマーシャル

番外編〔泡立ちやすさ〕
泡立たせるには,表面張力の壁を乗り越えなくはなりません。すなわち,表面張力の低い液体ほど泡立ち易いことになります。しかし,泡立ち易さと,できた泡の安定性は,異なる性質です。このため,AE剤や起泡剤は,双方を両立できるように成分を設計してあります。

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番外編〔減水率〕
なぜ,“減水”というかというと,減水性を持つ化学混和剤を使用すると,同程度のワーカビリティーを有するコンクリートを製造する際に,プレーンコンクリートに対して単位水量を減らすことができるからです。減水率の算出方法は,以下の通りです。

減水率(%)=(Wp−Wa)/Wpx100

ここに,Wp: プレーンコンクリートの単位水量(kg/m)
Wa: 化学混和剤の使用によって,プレーンコンクリートと同等のワーカビリティーを有するコンクリートの単位水量(kg/m)

単位水量と減水率の関係についての詳細は,こちらを参照してください6)

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番外編〔AE剤の減水率〕
JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」に規定されているAE剤の減水率の下限値は6%であるのに対し,減水剤は4%です。これは,AE剤によって導入される微細空気泡がもたらすボールベアリング作用がワーカビリティーの改善に,いかに有効であるかを物語っています。

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〔参考文献〕
1) 日本工業標準調査会ウェブサイト
2) 井上晋ほか:コンクリートなんでも小辞典,土木学会関西支部編,pp.28-29,株式会社講談社(ブルーバックス),2011.
3) 日本材料学会編:コンクリート用化学混和剤,pp.1-3,株式会社朝倉書店,1972.
4) 宮川豊章ほか:土木材料学,宮川豊章・六郷恵哲編,pp.99-108,株式会社朝倉書店,2012.
5) 前野昌弘:微粒子から探る物性七変化,pp.113-123,133-139,株式会社講談社(ブルーバックス),2002.
6) コンクリート用化学混和剤協会ウェブサイト

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