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レディーミクストコンクリート工場において発生する排水のうち,アジテータ車などの運搬車,ミキサなどのプラント設備に付着したフレッシュコンクリート・モルタルの洗浄や,工事現場から持ち帰られたコンクリート(戻りコンクリート)の洗浄により発生するものを回収水といいます。コンクリートスラッジとは,主に回収水から骨材を除去したものを指し,懸濁水の状態をスラッジ水,スラッジ水を脱水処理したものをスラッジケーキと呼び,スラッジ水中の固形分をスラッジ固形分と呼びます。スラッジ固形分は,セメントや骨材の微粒子などで構成されています。コンクリートスラッジの処理は,スラッジケーキの状態で廃掃法上の汚泥として扱われ,管理型産業廃棄物の最終処分場に埋立処分されることとなっています。
一方,近年,サーキュラーエコノミーを目指す考え方から,資源の投入量や消費量を抑えながら,ストックを有効活用する経済活動が求められています。ここでは,通常は廃棄物として処理されるコンクリートスラッジを取り上げ,その活用や排出量の削減に関する取組みについて紹介します。
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資源循環社会の構築を目指すため,環境省では「ものの流れ」である物質フロー1)を把握することが重要であるとしています。図-1に2021年度の日本における物質フローを示します。2000年度と比較すると,日本全体としては「入口」である物質投入量および「出口」である最終処分量のいずれも減少し,循環利用量については増加しているため,資源循環が推進されていることが分かります。
![]() 図-1 我が国における物質フロー(2021年度)1) |
ここで,生コンクリート工場を対象に循環利用について考えます。直近の2024年度における国内の生コンクリートの出荷数量は,約6569万m3です2)。全国生コンクリート工業組合連合会の調査では,生コンクリート出荷量に対する戻りコンクリートの発生率は約2.1%であることから3),年間の戻りコンクリートの発生量は100万m3以上であると試算されます。図-2に,戻りコンクリートの処理方法に関する調査結果を示します4)。これによると,戻りコンクリートを固形化して再資源化する処理方法が最も多く,主に路盤材などの道路舗装の用途に活用されています。しかしながら,近年では再生路盤材の需要・供給バランスの不安定さから,再生骨材コンクリートの利用推進の動きも見られます5),6)。このような背景から,戻りコンクリートの再資源化への要求が高まる中で,コンクリートスラッジをさらに活用することが求められていると考えます。
![]() 図-2 戻りコンクリートの処理方法に関する調査結果4) |
レディーミクストコンクリート工場におけるコンクリートスラッジの発生と回収のフローは,例えば図-3のようになっています7)。まず,コンクリートやモルタルを含んだ洗浄水から粗骨材と細骨材が回収され,スラッジ水となります。その後,脱水処理を経てスラッジケーキと上澄み水に分けられます。回収された骨材は路盤材などで利用されるほか,回収骨材としてレディーミクストコンクリート中の新しい骨材に一部置換をすることも可能です。また上澄み水は,JIS A 5308に記載される「回収水の品質」を満足することを確認して,レディーミクストコンクリートの練混ぜ水として利用することが可能です。以降は,コンクリートスラッジの活用方法および削減への取組みについて示します。
![]() 図-3 レディーミクストコンクリート工場におけるコンクリートスラッジの発生と回収の一例7) |
コンクリートスラッジのコンクリートの構成材料としての活用は,用途毎に主に練混ぜ水と粉体材料に分けられます。(1)練混ぜ水としての活用
コンクリートの練混ぜに用いる水として,JIS A 5308「レディーミクストコンクリート」では上水道水,上水道水以外の水および回収水が規定されており,スラッジ水は回収水の品質を満足する範囲で使用することが可能です。2024年3月の改正では,単位セメント量に対するスラッジ固形分の質量の割合である「スラッジ固形分率」について,その限度の記載が,”3%を超えてはならない”から,安定剤を用いる場合は”6%以下”と変更され,練混ぜ水としてコンクリートスラッジを活用可能な量が緩和されました(表-1)。スラッジ固形分中のセメント活性度と安定剤の凝結遅延成分のオンライン測定が可能な自動安定化管理システムが開発されることで,コンクリートの品質制御が可能となり,スラッジ水のさらなる活用が推進されています8)。
| スラッジ水の使用方法 | スラッジ固形分率の限度 | スラッジ固形分の取扱い |
| A方法:安定剤を用いない場合 | 目標値として1%未満 | 水の質量に含めてもよい |
| 目標値として1%以上,3%以下 | 水の質量に含めないが,容積は配合に含めてもよい | |
| B方法:安定剤を用いる場合 | 目標値として3%以下 | 水の質量に含めないが,容積は配合に含めてもよい |
| 目標値として3%を超え,6%以下 | 容積は配合に含める |
![]() 図-4 乾燥スラッジの比表面積とモルタル強度の関係11) |
スラッジ固形分の主成分はセメント由来の成分であるため,生成された直後のコンクリートスラッジは強アルカリを示します。この強アルカリを生かす一例として,清掃工場の焼却炉から排出される有害な酸性ガス(主成分:塩化水素)をコンクリートスラッジに吸収させる方法が検討されています13)。また近年では,コンクリートスラッジは温室効果ガスの1つである二酸化炭素を固定する材料としても注目されております。産業で大気中に排出される二酸化炭素を,回収して資源として有効利用する技術をCCU(Carbon Capture and Utilization)といいます。コンクリートスラッジを対象にしたCCU技術に関する検討も多く14),15),16),17),18),このうちコンクリートスラッジから溶出したカルシウムを対象にボイラーの排気ガス中の二酸化炭素を固定して高純度の炭酸カルシウムを生成させた材料があります(表-2)。この材料は,コンクリート混和材としての用途に加え,排煙脱硫剤や紙・塗料・ゴムの添加材など,他産業分野への活用も期待されています。
| 項目 | 物性値など |
| 粒度 | 約30〜40μm |
| 白色度 | 約95% |
| 容積重量 | 約0.5kg/L |
| BET比表面積 | 約5.0m2/g |
| ブレーン値 | 約3,000〜4,000cm2/g |
| 全アルカリ | 0.05%以下 |
| 塩化物イオン | 0.005%以下 |
| CaCO3含有率 | 95%以上 |
コンクリートスラッジをカルシウム源として,クリンカ原料の一部に使用する検討がなされています19)。表-3に焼成に用いた原料構成とクリンカの鉱物組成を示します。ここでの検討範囲では,スラッジの使用により遊離石灰(f-CaO)の減少やMgO含有量の増加によりクリンカ鉱物組成が若干変化するものの,セメントペーストの流動性,凝結時間およびモルタルの圧縮強さへの影響は小さいことが示されています。これより,コンクリートスラッジをクリンカ原料に置換することで,石灰石や珪石が削減できる可能性が考えられます。
表-3 原料構成とクリンカの鉱物組成19)![]() |
レディーミクストコンクリート工場における運搬車や設備に付着したフレッシュコンクリート・モルタルの洗浄水は定常的に一定量発生するため,コンクリートスラッジの量は戻りコンクリートの発生量によって大きく左右されると考えられます。2010年に報告された,戻りコンクリートの発生抑制に関する調査結果を図-5に示します20)。図中で示されるコンクリート(A)はアジテータ車で工事現場まで運搬されたコンクリートの一部が工場に戻ったもの,コンクリート(B)は運搬されたコンクリート全量が工場に戻ったものを表していますが,いずれの場合も打込み終了近くで精度良くコンクリートの必要量が把握できていないことが戻りコンクリート発生の主要因と認識されていました。このような実態等を受けて,近年,コンクリートの施工現場では画像認識などによる打込みの管理システム21),22)などの導入が進んでおり,リアルタイムでコンクリートの打込みの必要量を把握することで戻りコンクリートの低減に貢献しています。
![]() 図-5 戻りコンクリートが発生する主な原因の認識20) |
コンクリートスラッジの活用技術は古くから検討されてきましたが課題も多く,なかなか普及に至っていないものも多いのが現状です。しかしながら,近年のサーキュラーエコノミーの考え方により資源としての重要性が見直されているのではないかと思います。廃棄物であるスラッジはある程度の品質のばらつきが想定されますが,品質管理技術の進歩を上手く取り入れながら,コンクリートスラッジが資源としてさらに循環していくことで,持続可能な社会の形成に貢献していくと考えます。