日本コンクリート工学会

ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2026年7月号

2026年7月号

予防保全を目的とした鉄筋コンクリート構造物の点検方法に関する研究委員会(JCI-TC243A)活動概要

近年,社会資本の老朽化が急速に進行する中,その適切な維持管理の重要性はますます高まっております。これまでコンクリート構造物の維持管理分野においては,劣化が顕在化した「加速期」あるいは「劣化期」の構造物を対象とした事後保全型の調査・診断,補修・補強技術の高度化が主として進められてきました。一方,ライフサイクルコスト(LCC)の観点からは,変状が顕在化する以前の段階で適切な措置を講じる予防保全型維持管理の重要性が広く認識されております。しかしながら,現行の橋梁定期点検において中心となる外観目視点検や打音検査では,鉄筋腐食に起因する変状が表面化した段階で初めて異常を把握する場合が多く,結果として事後保全型の対応にとどまることが少なくありません。今後は,一見健全に見える段階において,構造物内部の劣化状態を的確に評価し得る点検手法の確立が,これからの維持管理分野における重要な課題となっています。
このような問題意識のもと,公益社団法人日本コンクリート工学会においては,2024年度に「予防保全を目的とした鉄筋コンクリート構造物の点検方法に関する研究委員会(委員長:竹田宣典・広島工業大学)」を発足いたしました。本研究委員会では,主として塩害および中性化による劣化の初期段階にあり,外観上の変状が未だ顕在化していない構造物を対象に,初期劣化段階の状態を高精度に評価可能な点検手法の体系化とその実装可能性の検討を進め,予防保全型維持管理への転換を図ることを目的として活動を重ねてまいりました。本稿では,2年間にわたる委員会活動の概要を紹介するとともに,2026年9月に開催する委員会報告会についてご案内いたします。

※本記事に記載の情報は記事公開時点のものです。適宜,最新情報をご確認ください。


委員会活動概要

本研究委員会の構成を表-1に示します。研究委員会では,中性化および塩害を対象とした鉄筋コンクリート構造物の予防保全を目的とした点検方法について調査し,これらの点検方法を確立することを目的として3つのWGを設けて議論を進めることとしました。

表-1 研究委員会の構成
委員長 竹田 宣典(広島工業大学)
幹事 濱崎 仁(芝浦工業大学)
遠藤 裕丈(土木研究所 寒地土木研究所)
田中 博一(清水建設)
江良 和徳(コンクリートメンテナンス協会)
委員 伊藤 雄貴(CORE技術研究所)
蔵重 勲(電力中央研究所)
酒井 正樹(大林組)
崎原 康平(琉球大学)
佐々木謙二(長崎大学)
田沼 毅彦(元:都市再生機構)
土屋 直子(国土交通省 国土技術政策総合研究所)
中田 清史(建築研究所)
野村 倫一(西日本旅客鉄道)
萩原 直樹(中日本高速道路)
福井 洋介(太平洋マテリアル)
山本 誠(住友大阪セメント)
湯地 輝(東洋建設)
顧問 十河 茂幸(近未来コンクリート研究会)

■中性化深さの評価方法WG(WG1)
中性化深さの評価方法WG(WG1)では,RC構造物の予防保全を目的とした合理的な中性化点検のあり方について,現状の技術基準や最新の試験方法,実態調査に基づき検討を行いました。コンクリートの中性化速度は,材料品質や環境作用,仕上材の有無に大きく左右されます。また,中性化後の鋼材腐食の進展も部材の乾湿状態に依存するため,個別の部位・部材の状況に応じた評価が不可欠です。
本WGでは,まず土木・建築両分野における中性化およびかぶり(厚さ)に関する試験方法や技術基準の実態を調査しました。中性化深さの測定はJIS A 1152に基づくコア採取法が一般的ですが,構造物への損傷を伴うため予防保全のための頻繁な調査には不向きです。そこで,低損傷なドリル削孔法(NDIS 3419)や,モニタリングへの応用が期待されるLIBS法(レーザー誘起ブレイクダウン分光),pHセンサ埋設法など,現行技術による合理的な点検手法を整理しました。
さらに,維持管理計画における「維持管理限界」に応じた点検方針を提案しました。従来の中性化深さが鋼材位置に達する時点を限界とする考え方に加え,水の浸透を考慮した鋼材腐食速度に着目する照査概念を導入しました。劣化が顕在化する前の「潜伏期」や「進展期」における定量的な指標(中性化残り,水掛かりの状態等)に基づく維持管理の流れをとりまとめることで,環境作用の強弱に応じた効率的な予防保全体系の構築に資する知見を整理しました。図-1に,「予防保全のための中性化の点検フロー」を示します。

図-1 予防保全のための中性化の点検フロー img
図-1 予防保全のための中性化の点検フロー

■塩化物イオン濃度の評価方法WG(WG2)
塩化物イオン濃度の評価方法WG(WG2)では,塩害に対する予防保全を目的とした点検方法について,最新の調査研究や技術動向に基づき検討を行いました。塩化物イオンの浸透傾向は,飛来塩分量や風向,乾湿状態などの環境条件に大きく依存します。また,中性化による移動濃縮やスケーリングによる表面位置の変化など,複雑な要因が浸透を加速させるため,実環境に即した高精度な評価が重要となります。
本WGでは,まず土木・建築分野の点検実態を調査し,沿岸地域や凍結防止剤散布地域における供給環境の差異を整理しました。塩化物イオン量の測定はJIS A 1154に準じたコア採取が一般的ですが,点検の高度化・効率化のため,ドリル削孔粉を活用した簡易測定法(電量定量式塩分計等)や非破壊試験法(近赤外線法,中性子法等)の適用性について技術比較を行いました。また,浸透予測に関しても,フィックの拡散方程式に基づく基本評価に加え,環境条件が変動する実地への適用において機械学習や差分法を活用する手法の有用性を検討しました。
以上の検討を踏まえ,本WGでは事前調査から点検箇所の選定,測定手法の選択,浸透評価に至る一連の「予防保全を目的とした塩化物イオン濃度の点検フロー」を提案しました。これにより,微細な環境作用の違いを考慮し,劣化が顕在化する前の適切なタイミングで対策を講じるための合理的な指針を示しました。
図-2に,「予防保全を目的とした塩害(塩化物イオン濃度)の点検の考え方」を示します。

図-2 予防保全を目的とした塩害(塩化物イオン濃度)の点検の考え方 img
図-2 予防保全を目的とした塩害(塩化物イオン濃度)の点検の考え方

■鉄筋の腐食度評価WG(WG3)
鉄筋の腐食度評価WG(WG3)では,RC構造物の長寿命化とライフサイクルコスト低減に資する「予防保全型」の維持管理手法について検討を行いました。従来の維持管理は,はく離やはく落などの変状が表面に現れてから対応する「事後保全」が主流でしたが,本WGでは,変状が顕在化しない潜伏期から進展期において,非破壊かつ効率的に鋼材腐食の有無や程度を把握する手法に着目しました。
本WGでは,まず鋼材腐食の基本メカニズムを整理した上で,現在普及している自然電位法や分極抵抗法に加え,近年開発が進む新たな非破壊検査技術(電磁波法,漏洩磁束法,電気抵抗率法等)の最新動向を調査しました。これらの手法について,現場への適用性や測定精度の観点から技術的特徴と留意点を整理しました。
以上の検討を踏まえ,本WGでは「予防保全を目的とした鉄筋腐食の点検フロー」を提案しました。本フローでは,中性化や塩化物イオン濃度の測定結果から「鋼材腐食発生リスク領域」を設定し,構造物の重要度や維持管理限界を考慮して詳細点検の部位を合理的に選定する手順を示しています。点検により得られた腐食リスクに基づき,健全度判定や将来の劣化予測,補修時期の検討へと繋げる一連の体系をとりまとめました。これにより,表面に変状が現れる前の段階で構造物の状態を定量的に評価し,適切な対策を講じるための技術的な枠組みを構築しました。
図-3に,「予防保全を目的とした鋼材腐食の点検の考え方・流れ」を示します。

図-3 予防保全を目的とした鋼材腐食の点検の考え方・流れ img
図-3 予防保全を目的とした鋼材腐食の点検の考え方・流れ

委員会成果報告会

本研究委員会におけるこれまでの活動成果を広くご報告するとともに,成果報告書の内容解説ならびに今後の予防保全型維持管理のあり方を展望するパネルディスカッションを通じて,理解の深化と実務への展開に資することを目的として,下記のとおり成果報告会を開催いたします。なお,パネルディスカッションには,構造物管理者の立場からもパネラーを迎え,実務的視点を交えた議論を行うこととしております。関係各位におかれましては,ぜひご参集賜りますよう,謹んでご案内申し上げます。

■予防保全を目的とした鉄筋コンクリート構造物の点検方法に関する研究委員会報告会(対面形式)
開催日時:2026年9月15日(火)13:00〜17:00
開催方式:対面
開催場所:品川区立総合区民会館 きゅりあん 小ホール(東京都品川区東大井5-18-1)

プログラム(予定):

13:00 開会
13:00〜13:05 開会挨拶,趣旨説明
13:05〜14:30 パネルディスカッション:「構造物の予防保全のための点検の実態と課題」
パネラー(予定);以下の通り
・土木学会コンクリート標準示方書:蔵重勲(電力中央研究所)
・国土交通省(土木分野):遠藤裕丈(土木研究所 寒地土木研究所)
・国土交通省(建築分野):土屋直子(国土交通省 国土技術政策総合研究所)
・道路構造物:萩原直樹(中日本高速道路)
・鉄道構造物:野村倫一(西日本旅客鉄道)
・集合住宅:田沼毅彦(元:都市再生機構)
14:30〜14:40 <休憩>
14:40〜15:20 委員会報告1:「構造物の予防保全のための中性化の点検方法」
15:20〜16:00 委員会報告2:「構造物の予防保全のための塩害の点検方法」
16:00〜16:10 <休憩>
16:10〜16:50 委員会報告3:「構造物の予防保全のための鉄筋腐食の点検方法」
16:50〜17:00 まとめ,講評,閉会挨拶

(内容および時間は,都合により変更することがありますので,あらかじめご了承ください。)

※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html

執筆者:竹田 宣典(広島工業大学)※1
濱崎 仁(芝浦工業大学)※2
遠藤 裕丈(土木研究所 寒地土木研究所)※2
田中 博一(清水建設)※2
江良 和徳(コンクリートメンテナンス協会)※2

※1 予防保全を目的とした鉄筋コンクリート構造物の点検方法に関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事

Copyright © Japan Concrete Institute All Rights Reserved.

トップに戻る