ホーム > コンクリートについて > 月刊コンクリート技術 > 2026年7月号
2011年東北地方太平洋沖地震以降,国土交通省は「津波避難ビル等の構造上の要件」1)を発出し,高い浸水深で発生する津波荷重に対する指定津波避難施設の構造設計方法を示しました。現在も自治体では今後想定される東海・東南海地震に向けて,指定津波避難施設の確保等が進められています。一方で,震災から15年が経過し,耐津波荷重や構造設計法に関する解析的あるいは実験的研究は研究者レベルでは進められてきているものの,研究から得られている最新の知見が学協会等の技術基準を通じて設計者に共有されているとは言い難いのが現状です。2024年能登半島地震においても浸水深3m程度の津波が発生し,木造家屋の一部や乗用車などの漂流物が衝突する事例が散見されています2)。本研究委員会では津波荷重および耐津波設計に関する技術的知見について収集し,設計時における項目別に整理し,一部は設計例を通じてその活用方法を示しました。鉄筋コンクリート構造物の耐津波設計に関する最先端の知見と課題を知っていただくために,本稿では本研究委員会の報告書の内容を概説いたします。併せて,2026年9月に開催する委員会報告会についてもご案内いたします。
本研究委員会では耐津波設計に関する防災技術に関する既往のガイドラインや研究成果について調査を実施したところ,1)耐津波設計に関する多くの研究が津波荷重の算定法に関する内容であること,2)対象とする構造物の分野間で設計の特徴や考え方に隔たりがあること,3)津波漂流物の衝突荷重に対する設計方法が提示されていないことに着目しました。委員会は表-1に示すRC造建物,免震建物,橋梁構造物,鉄道構造物,原子力構造物を対象とした研究者・構造設計者に加えて,国立研究開発法人,財団法人,自治体から委員に参画頂きました。その後,設計WG,土木WG,実験WGを設置し,検討を進めてまいりました。
| 委員長 | 壁谷澤 寿一 | 東京都立大学 |
| 幹事 | 浅井 竜也 | 東京大学 |
| 井上 修作 | 株式会社竹中工務店 | |
| 木原 直人 | 一般財団法人電力中央研究所 | |
| 小林 正人 | 明治大学 | |
| 迫田 丈志 | 株式会社堀江建築工学研究所 | |
| 委員 | 太田 行孝 | 戸田建設株式会社 |
| 川上 善嗣 | 広島工業大学 | |
| 北嶋 圭二 | 日本大学 | |
| 坂井 公俊 | 公益財団法人鉄道総合技術研究所 | |
| 鈴木 裕美 | 一般財団法人日本建築防災協会 | |
| 高橋 容之 | 鹿島建設株式会社 | |
| 中村 康一 | 中村建築構造設計合同会社 | |
| 細見 亮太 | 株式会社構造計画研究所 | |
| 松川 和人 | 東京大学 | |
| 牧村 義隆 | 株式会社構造計画研究所 | |
| 三木 朋広 | 神戸大学 | |
| 山下 淳一 | 株式会社日本設計 | |
| 横田 恭子 | 静岡県 | |
| 渡邊 秀和 | 国立研究開発法人建築研究所 |
■設計WG(WG1)
耐津波構造設計に関する解析的あるいは実験的研究は,研究から得られている最新の知見が学協会等の技術基準を通じて設計者に共有されているとは言い難く,特に衝突や浮力,洗掘等は,設計者の判断にゆだねられている部分も多いことから,設計WG(WG1)では,耐津波構造設計をする設計者への有用な参考資料となるように報告書をまとめました。
RC造建築物や免震建築物,建築基礎の耐津波構造設計を念頭におき,設計における津波荷重(砕波の考慮・津波の入射方向・開口による低減・外壁脱落の考慮・衝突力・免震構造への入力等)の設定方法や,浮力や鉛直荷重(空気だまりの考え方・水位上昇速度の考慮)の検討方法,部材耐力(杭基礎の洗堀・2方向外力を受ける壁の性能・波圧を受ける壁の面外終局耐力・免震構造の津波による振動・止水シート)の算定方法,その他津波火災への配慮等について,多岐にわたる現状の技術基準や指針,論文等を調査して整理するとともに,できるだけ具体的な設計例を示すこととしています。
報告会では,以上の耐津波構造設計において活用できる資料の内容を紹介することに加えて,具体的な計算方法,検討方法,設計方法を示すとともに,耐津波構造設計に向けた今後の課題等について議論いたします。
■土木WG(WG2)
WG(WG2)では,道路橋,鉄道高架橋,港湾構造物,原子力発電所の防潮堤など,種々の用途の施設における耐津波設計の現状について議論し,今後耐津波設計の確立において必要な検討項目について整理を行ってきました。具体的には,目標性能や,参照される指針またはガイドライン,設計の基準となる津波の諸元の決定方法,荷重評価法,構造応答評価法および限界値の設定について,分野ごとに整理すると共に,分野間での相違や共通点について報告書にとりまとめました。
報告会では,道路橋,鉄道高架橋,原子力発電所の施設における耐津波設計について,一部設計例も紹介すると共に(図-1,図-2),これらの最新の状況や今後の課題について紹介いたします。
![]() 図-1 津波作用時における単柱式橋脚の概形 |
![]() 図-2 津波荷重作用時の単柱式橋脚の変形図(変形倍率700倍) |
■実験WG(WG3)
過去の津波来襲時には漂流物の衝突による構造物の被害が報告され,特に船舶といった大規模漂流物の衝突は構造物の崩壊などの甚大な被害を生じさせかねないものの,その定量的な安全性検討手法は確立されておりません。そのため実験WG(WG3)では,津波漂流船舶が鉄筋コンクリート造部材に衝突する状況を模擬した衝撃載荷実験を実施し,衝突時における鉄筋コンクリート造部材の破壊現象理解とそれに基づく安全検討手法の構築に資する知見を得ました。
実験は,架構の安定性に重要な柱部材を対象にし,既往の実験研究事例では鋼板巻き等の補強を施していない柱を対象とした事例や高さ方向の中心位置に荷重を作用させる事例が主であることを踏まえ,ここでは鋼板巻き補強の効果の確認と,載荷点が高さ方向の中心位置ではない場合に着目し,以下のような計画としました。すなわち,10階建て鉄筋コンクリート造津波避難ビル(設計例)の3階の柱を1/8スケールに縮小した鉄筋コンクリート造柱試験体と(図-3(a),(b)),それに鋼板巻き補強を施した試験体(図-3(c))を製作し,一定軸力を作用させた状態で船舶の船首を模擬した鋼棒を振り子型の装置を用いて衝突させました(図-4)。鋼板巻き補強試験体については,衝突実験におけるひずみ速度による強度増加の影響を検証することを目的に,同様に一定軸力を作用させた状態での静的載荷実験も加えて行いました。加力高さはいずれの実験も部材高さの3/4となる位置としました。
実験で得られた破壊モードは,無補強(鋼板巻き補強を施していない)試験体では衝突位置を基準に上部がせん断破壊,下部が曲げ降伏(図-5(a))となった一方,鋼板巻き補強試験体では,衝突実験(図-5(b)),静的載荷実験(図-5(c))共に,衝突位置を基準に上部が鋼板−スタブ間のクリアランス部での直接せん断破壊,下部がクリアランス部での曲げ降伏となり,鋼板巻き補強の有無で異なる破壊モードが生じることが確認されました。最大耐力については,鋼板巻き補強を施すことによって上昇することを確認し(すなわち同補強が対津波漂流物補強として有効な工法の一つであること示し),さらに,無補強試験体における加力点の違いによる変化と,静的載荷実験と衝突実験の違い(すなわち動的影響)をそれぞれ確認いたしました。
報告会では,以上の実験および得られた結果の分析内容に加え,被衝突部材の応答を破壊モードに応じて推定する手法の適用性,漂流物衝突に対する構造物の設計に向けた今後の課題等について紹介いたします。
![]() 図-3 実験試験体の諸元(単位:mm) |
![]() 図-4 衝突実験のセットアップ |
![]() 図-5 実験試験体の破壊の様子係 |
本研究委員会での調査研究の総括として,以下の日程において委員会の報告会を開催いたします。委員会の取組みによって明らかとなった詳細な内容を報告いたします。皆様の多数のご参加をお待ちしております。どうぞよろしくお願いいたします。
| 開会挨拶・活動概要 | 13:00〜13:10 |
| 委員会報告(1):現状の耐津波設計基準 | 13:10〜13:30 |
| 委員会報告(2):土木分野における設計技術と課題(土木WG) | 13:30〜14:00 |
| 委員会報告(3):建築分野における設計技術と課題(1)(設計WG) | 14:00〜14:45 |
| <休憩> | 14:45〜15:00 |
| 委員会報告(3):建築分野における設計技術と課題(2)(設計WG) | 15:00〜15:45 |
| 委員会報告(4):既存建築物の漂流物対策の提案(衝突載荷実験)(実験WG) | 15:45〜16:45 |
| 総括および閉会挨拶 | 16:45〜17:00 |
| (内容および時間は,都合により変更することがありますので,あらかじめご了承ください。) | |
※プログラム・申込方法などの詳細はこちらをご覧ください。
https://www.jci-net.or.jp/j/events/symposium/index.html
※1 鉄筋コンクリート造構造物の津波被害軽減化技術に関する研究委員会 委員長
※2 同上 幹事