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2026年10月号

「コンクリートに用いるスラグ骨材の環境安全品質に関する研究委員会」(JCI-TC246C)活動概要


はじめに

コンクリートに用いるスラグ骨材を規定する規格として,「高炉スラグ骨材(JIS A 5011-1)」1),「フェロニッケルスラグ骨材(JIS A 5011-2)」2),「銅スラグ骨材(JIS A 5011-3)」3),「電気炉酸化スラグ骨材(JIS A 5011-4)」4),「石炭ガス化スラグ骨材(JIS A 5011-5)」5),および「溶融スラグ骨材(JIS A 5031)」6)の各JIS(日本産業規格)が制定されています。これらのJISに導入されている環境安全品質の考え方は,2012年に経済産業省から発行された「コンクリート用骨材又は道路用等のスラグ類に化学物質評価方法を導入する指針に関する検討会総合報告書」7)(以下で総合報告書と記す)に依拠しており,スラグ骨材の製造事業者がライフサイクル全体に渡って環境安全性を担保する考え方が採用されています。
そのような中で,2022年9月に「コンクリートに用いる粉体系材料の環境安全品質に関する研究委員会報告書」8)(以下で粉体委員会報告書と記す)が日本コンクリート工学会によりまとめられました。この中で,コンクリート中の粉体系材料は既にライフサイクルを通じて十分に環境安全性が担保されており,コンクリートに用いる粉体系材料のJISには直ちに環境安全品質を導入する必要はないと結論付けられました。
そのため,同じコンクリートに用いる素材でありながら,粉体系材料と骨材とで環境安全品質の考え方が異なることになり,その理由と意義を検討する必要がありました。
また,総合報告書を受けて運用されている環境安全品質の管理をより効率的にすることへの製造事業者の要請が強いことや,総合報告書における環境安全品質基準は発刊当時の環境基準をベースにしており,その後の環境基準の変更を反映していないことなどの課題から,コンクリートに用いるスラグ骨材の環境安全品質のあり方を再検討することとしました。
このような背景のもと,「コンクリートに用いるスラグ骨材の環境安全品質に関する研究委員会」(委員長:肴倉宏史・国立環境研究所)では,2024年度から2年間の活動を行い,その成果を2026年8月に報告書として発刊しましたので,ご案内申し上げます。

※本記事に記載の情報は記事公開時点のものです。適宜,最新情報をご確認ください。


委員会活動概要

■環境安全品質管理(年次検査,出荷検査)の見直し
最初に述べたコンクリート用スラグ骨材の6つのJISでは,それぞれの物理的・化学的な性状や利用の実態に合わせて,各規格内で独自に環境安全品質を管理しています。例えば,銅スラグ骨材では,一部の化学物質に対してスラグ骨材の配合割合等の利用方法を限定して,その利用方法での利用模擬試料の状態で,環境安全品質を担保し,その他のスラグ骨材では出荷時の骨材の状態で,環境安全品質を担保しています。
このような製造事業者側の検査を主としたスラグ骨材の環境安全品質管理は,以下の理由から見直す余地があると考えられました。
(1)コンクリート中のスラグ骨材の配合割合は,概ね30%以下であり,セメントペーストに被覆されています。このため,利用模擬試料では化学物質の溶出がほとんど検出されないこと。また,スラグ骨材試料による溶出試験でも,化学物質の基準値以上の溶出はほとんどみられないこと。
(2)同じコンクリートの素材である粉体系材料においては,環境安全品質の管理が不要とされていること。
本研究委員会では,総合報告書の基本的考え方の一つになっている「年次検査(環境安全形式検査改め)」「出荷検査(環境安全受渡検査改め)」の2段階検査の枠組みを継承しながら,リサイクルされた状態でも環境安全品質が十分に担保できる範囲内で,スラグ骨材製造事業者における品質管理方法の見直しを議論しました。

■検討した項目
本研究委員会では,下記の項目を検討しました。
・環境安全形式検査と環境安全受渡検査の呼び名
・濃縮された化学物質の拡散防止のための含有量の上限値の設定
・出荷検査判定値を設定する試験(環境安全受渡検査判定値を設定する試験改め)の運用
・一般用途と港湾用途の区分
・環境安全品質検査方法
年次検査の頻度
年次検査,出荷検査の試験項目 等

■環境安全形式検査と環境安全受渡検査の呼び名の変更
環境安全形式検査と環境安全受渡検査の役割を明確にすることを目的として,検査の呼称を変更することとしました。
環境安全形式検査を年次検査と呼び,年次検査では,環境安全品質基準に対するスラグ骨材の適合性を判定することとしました。また,検出される可能性が低い化学物質の出荷検査を省略する判断,出荷検査判定値を設定する試験の実施の判断に年次検査の試験結果を利用できることとしました。
環境安全受渡検査を出荷検査と呼び,出荷検査では,出荷検査判定値あるいは環境安全品質基準値への適合性を判定することとしました。出荷検査判定値は,利用模擬試料による試験とスラグ骨材試料による試験との相関関係に基づき設定することとしました。

■含有量の上限値の設定
スラグ骨材を用いたコンクリートを港湾用途に用いる場合において,出荷検査ではスラグ骨材での溶出量試験を行わず,出荷検査判定値を設定する試験により含有量の判定値のみで出荷判定する場合があります。この場合には,出荷判定値が大きくなり,含有量基準値の10倍を超えるスラグ骨材が利用されてしまう可能性は否定できません。このため,コンクリートに用いるスラグ骨材について,含有量基準値の10倍の値を上限値とすることとしました。

■出荷検査判定値を設定する試験の運用
総合報告書の附属書I「コンクリート用スラグ骨材に環境安全品質及びその検査方法を導入するための指針(解説)」には,出荷検査判定値(環境安全受渡検査判定値改め)の設定方法が記載されています。利用模擬試料による試験値とスラグ骨材試料による試験値との相関関係を示す散布図を作成することにより,利用模擬試料が環境安全品質基準値を満たすように出荷検査判定値を設定する方法です。
この記載の中では,判定値を設定するために用いるデータとして年次検査試験値と出荷検査試験値を利用することとされています。また,利用模擬試料による年次検査試験値とスラグ骨材試料による出荷検査試験値のいずれも溶出量試験の値を用いる方法が例示されています。本研究委員会で環境安全品質検査方法の見直しを進めるにあたって,この出荷検査判定値を設定する試験の運用を検討しました。
まず,作業負荷の高い出荷検査判定値を設定する試験を実施すべき頻度を議論しました。総合報告書では,年次検査(環境安全形式検査改め)のタイミングに合わせて出荷検査判定値を設定する試験を実施することになっていますが,本研究委員会ではこれを改め,出荷検査判定値を設定する試験の実施頻度を独立して定めることとし,具体的な頻度を現行と同じ3年以内と定めました。
次に,利用模擬試料による溶出量試験とスラグ骨材試料による含有量試験との相関関係に基づいて同様の方法で含有量の出荷検査判定値を設定できないかを検討しました。運用の実態を把握するため,スラグ骨材で出荷検査判定値を設定する試験を実際に運用している銅スラグ骨材における鉛,ひ素,カドミウムについて実証実験を実施しました。この結果から,銅スラグ骨材の鉛,ひ素,カドミウムについて,利用模擬試料の溶出量試験値とスラグ骨材試料の含有量試験値との相関,もしくは,利用模擬試料の含有量試験値とスラグ骨材試料の含有量試験値の相関をとることにより,出荷検査判定値を決定することができることを確認できましたので,運用をすることとしました。

■一般用途と港湾用途の区分
総合報告書では,主に表流水や地下水へ流出が見込まれる一般用途と,海水による大きな希釈が見込まれる港湾用途に区別しています。
また,スラグのコンクリート用骨材への利用について,一般用途は再利用されて再生路盤材として使用される状態を「最も配慮すべき曝露環境」としているのに対し,港湾用途は再利用が想定されないことから最初の用途(コンクリート構造物等)の状態を「最も配慮すべき曝露環境」として,それぞれ環境安全品質を管理することとされています。
検査方法の見直しにおいては,一般用途と港湾用途のそれぞれについて,スラグ骨材の利用方法(コンクリートへの骨材配合割合等)を限定する場合と限定しない場合とに分けて検討しました。

■一般用途の検査方法の見直し
(1)利用方法が非限定の場合
ほとんどのスラグ骨材において,スラグ骨材試料による溶出量試験で基準値を超えることはありません。また,スラグ骨材試料で基準値を超える場合であっても,利用方法(骨材配合割合等)および利用用途を限定することで,その用途の利用模擬の状態では基準値を超えることはありません。このことから,ほとんどのスラグ骨材は,一般用途の「最も配慮すべき曝露環境」である再生路盤材の状態を想定しても,コンクリートの粉体系材料と同様に環境安全品質管理を実施する必要がないと考えられます。しかし,スラグ骨材のユーザーからの信頼を確保するために,最低限の環境安全品質管理の方法を定めることは必要であるという意見がありました。
本研究委員会での議論の結果,出荷検査では,品質傾向を把握するために必要な試験のみを実施することとしました。また,年次検査では,多くの工場で1年以内の頻度で実施されていることから,その頻度を従来の3年以内から1年以内に見直すこととしました。次に,品質傾向を把握するための最低限の試験の方法について,既存のスラグ類の化学物質試験方法の中から,溶出量試験(JIS K 0058-1),含有量試験(JIS K 0058-2)を含む種々の分析方法を検討しましたが,以下の理由から含有量試験(JIS K 0058-2)を採用することとしました。
・溶出量試験(JIS K 0058-1)よりも含有量試験(JIS K 0058-2)の方が,定量下限値以上の値を検出する頻度が高く,かつ,試験結果のばらつきが小さいため,品質傾向を把握する試験として適していること。
・含有量試験(JIS K 0058-2)と環境省告示19号試験では,試料の調整方法が異なるもののそれ以外については試験方法が同じであり, 含有量試験(JIS K 0058-2)に合格すれば,環境省告示19号試験にもほぼ合格したとみなせること。
検討の結果,コンクリートの利用方法が非限定の場合には,出荷検査を,含有量試験のみ(溶出量試験なし)として,年次検査の頻度を3年以内から1年以内に変更することとしました。
(2)利用方法を限定する場合
スラグ骨材の配合割合等を定めて利用方法を限定する場合は,利用模擬試料による試験とスラグ骨材試料による試験の両方を実施して,スラグ骨材試料による出荷検査の判定値(含有量)を定めることができこととしました。この判定値を定める試験として,利用模擬試料による試験(溶出量あるいは含有量)等とスラグ骨材試料で実施した試験(含有量)との相関をとることとしました。また,その判定値を定める試験の頻度を,従来の環境安全品質形式検査と同じ3年以内とすることに定めました。この結果得られた出荷検査判定値と含有量基準の10倍値のうちの小さい方の値を出荷判定値とすることとしました。

■港湾用途の検査方法の見直し
(1)利用方法が非限定の場合
コンクリート用スラグ骨材の港湾用途には,溶出量基準のみが設定されており含有量基準が設定されていません。出荷検査として含有量試験を採用するべきか検討しました。
議論の結果,出荷検査で含有量試験を実施するのに合わせて,年次検査でも溶出量試験に加えて含有量試験を実施することとしました。含有量試験の基準値は,総合報告書に定められる含有量基準値の10倍としました。
出荷検査では,これまで実施していた溶出量試験に代えて,品質傾向を把握するための試験として,出荷検査での含有量試験を採用したのと同じ理由で含有量試験を採用することとしました。この判定値についても,含有量基準値の10倍としました。また,年次検査に含有量試験を追加し,頻度を3年以内から1年以内に変更し,出荷検査は含有量試験のみ(溶出量試験なし)とし,基準値は含有量基準値の10倍としました。

(2)利用方法を限定する場合
利用模擬試料で実施した溶出量試験の結果と,スラグ骨材試料で実施した含有量試験の結果との相関関係から出荷検査判定値を設定する試験を3年以内の頻度で実施し,この結果から求められた出荷検査判定値と含有量基準の10倍値の小さい方の値を出荷検査(含有量)の判定値としました。

■総括
粉体委員会報告書8)の記載によると,供用中のコンクリートは環境安全品質を常に満たしており,コンクリート解体後の再生材は粒径の小さい一部の再生砂を除いて環境安全品質を常に満たしています。本研究委員会においても,骨材試料あるいはコンクリートの解体後を模擬した利用模擬試料で,全てのスラグ骨材が環境安全品質を満たしていることを確認することができました。現状の環境安全品質管理で,コンクリートに用いるスラグ骨材は,ライフサイクルを通じて十分に環境安全性が担保されていると判断しています。
しかし,環境安全品質を生産事業者側で担保することが求められていること,需要家に対して信頼を確保する必要があることから,現状では,コンクリートに用いられるスラグ骨材は安全側の評価手法が採用されていますが,このことによってスラグ骨材の有効活用が阻害されることは避けなければはなりません。
本研究委員会では,コンクリートに用いられる全てのスラグ骨材に共通して適用できる合理性を持った仕組みについて,再検討しました。この結果,コンクリートに用いるスラグ骨材の利用についての以下のような実態があることを考慮して,スラグ骨材の環境安全品質管理の方法をとりまとめました。
・スラグ骨材はセメントペーストに被覆された状態で利用されるため,骨材それ自体からの溶出の影響が小さい。
・「最も配慮すべき用途」は,一般用途では再生路盤材であり,港湾用途では最初の用途(コンクリート構造物のような,再使用が想定されない用途)の状態である。
・ユーザーからの信頼を確保するために,最低限の環境安全品質管理が必要である。
検討の結果,年次検査(環境安全形式検査改め)の頻度を3年以内から1年以内にすること,品質傾向管理として位置付ける出荷検査(環境安全受渡検査改め)を含有量(JIS K 0058-2)のみで実施することで,これまでの環境安全性を担保した上で,より合理的な管理方法を提案し,以下の表-1としてとりまとめました。

表-1 環境安全品質管理(年次検査,出荷検査)方法の整理
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表-1 環境安全品質管理(年次検査,出荷検査)方法の整理 img

委員会報告書の発刊と販売開始について

本研究委員会では,コンクリートに携わる皆様に広く成果を公表するために,成果概要をJCIのホームページに公開するとともに,2026年8月から報告書を販売しております。ぜひお手に取っていただきたく,よろしくお願い申し上げます。

■コンクリートに用いるスラグ骨材の環境安全品質に関する研究委員会報告書
報告書の構成
第1章 本研究の背景と目的
・本研究の背景
・本研究の目的
・本研究の実施体制
第2章 本研究の進め方
・基本の考え方
・本研究委員会の進め方
第3章 これまでの経緯
・循環資材への環境安全品質の導入
・スラグ骨材への環境安全品質の導入
第4章 コンクリートに用いられるスラグ骨材の性状,利用,品質管理の現状
・概要
・高炉スラグ骨材
・フェロニッケルスラグ骨材
・銅スラグ骨材
・電気炉酸化スラグ骨材
・石炭ガス化スラグ細骨材
・溶融スラグ骨材
・環境安全品質管理のまとめ
第5章 環境安全品質管理(年次検査,出荷検査)の見直し
・検討した項目
・環境安全品質形式検査と環境安全受渡検査の呼び名の変更
・含有量の上限値の設定
・出荷検査判定値を設定する試験の運用
・一般用途と港湾用途の区分
・検査方法の見直し
・まとめ
第6章 全体のまとめ
第7章 今後の課題
図-1 委員会報告書の表紙 img
図-1 委員会報告書の表紙

以下より購入できます(定価3,300円,会員価格2,970円)。
https://www.jci-net.or.jp/j/publish/book/list_201910.html


参考文献

1)JIS A 5011-1:2018 コンクリート用スラグ骨材−第1部:高炉スラグ骨材
2)JIS A 5011-2:2016 コンクリート用スラグ骨材−第2部:フェロニッケルスラグ骨材
3)JIS A 5011-3:2016 コンクリート用スラグ骨材−第3部:銅スラグ骨材
4)JIS A 5011-4:2018 コンクリート用スラグ骨材−第4部:電気炉酸化スラグ骨材
5)JIS A 5011-5:2020 コンクリート用スラグ骨材−第5部:石炭ガス化スラグ骨材
6)JIS A 5031:2016 一般廃棄物,下水汚泥又はそれらの焼却灰を溶融固化したコンクリート用溶融スラグ骨材
7)経済産業省:コンクリート用骨材又は道路用等のスラグ類に化学物質評価方法を導入する指針に関する検討会総合報告書,2012.3
8)日本コンクリート工学会:コンクリートに用いる粉体系材料の環境安全品質に関する研究委員会報告書,2022.9

執筆者:肴倉 宏史(国立研究開発法人 国立環境研究所)※1

※1 コンクリートに用いるスラグ骨材の環境安全品質に関する研究委員会」(JCI-TC246C)委員長

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