日本コンクリート工学会

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会誌「コンクリート工学」

コンクリート工学 Vol.61, No.9
2023年9月号

 

特集
ふるくてあたらしい中性化/炭酸化の新展開

中性化/炭酸化研究の歴史は古く、特に建築分野における耐久性確保の重要な検討事項のひとつとなってきたが、近年、その中性化に関連する周辺事情は大きく変わりつつある。建築分野では2022年に改定された日本建築学会建築工事標準仕様書鉄筋コンクリート工事JASS 5において、腐食環境に着目した耐久性評価の考え方が示され、中性化自体を指標とした耐久設計手法が見直されたが、土木分野ではそれに先行して中性化の検証方法について検討が進められている。また、中性化は既存構造物の健全性を評価する上で重要な指標のひとつとなっており、実環境下における中性化の進行を評価して再利用がされるケースが増えている。しかしながら、実構造物を中性化で評価しようとするのであれば、いわゆる√t則を超えた中性化/炭酸化に対するより精緻な現象理解を怠ってはならない。

一方で、環境配慮の観点で混和材の利用が推進されているが、その場合、本質的に中性化抵抗性が低くなるため、古くから多くの研究がなされてきた。さらに、近年では二酸化炭素固定の観点から、炭酸化養生などにより積極的に炭酸化を進める技術開発が活発に行われており、旧来の中性化研究の枠組みから見れば黒船到来といった様相を呈している。その恩恵として中性化/炭酸化自体の現象理解やそれにかかわる測定方法などの知見の蓄積が加速され、新たな視点で炭酸化メカニズムの理解が進んできている。

本特集号では、中性化/炭酸化をキーワードに、研究・開発の最前線を取り纏め紹介することで、これら現象をより精緻に理解し共有することを目的とした。1章では、国内外の動向を俯瞰すべく、建築、土木、セメント分野の最新の動向に加えて、国際的な学術研究の最前線について総論いただいた。2章では、中性化/炭酸化のメカニズムに関する近年の研究事例を、3章では、測定技術の事例として促進試験やフェノールフタレインといった古くからある手法に加え、塗膜の二酸化炭素透過性に関する新たな測定方法を紹介いただいた。加えて、CO2固定量の測定方法など環境配慮型コンクリートの利用に伴う新たな知見もできる限り紹介した。4章では、本学会や、土木学会、日本建築学会における関連する指針・仕様書類について解説し、5章では、既存構造物の再利用や実構造物における炭酸化促進などの事例を、6章では、近年の環境対策技術を中性化/炭酸化の側面から切り出して解説いただいた。

本特集号が、新しい中性化/炭酸化の理解を深め、今後の鉄筋コンクリート構造物の新たな展開を支える創造性豊かな発想につながれば幸いである。

(コンクリート工学編集委員会)

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