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現在、国内のコンクリート構造物による社会資本整備は、平準・縮減期にあり、地域・都市のインフラやライフラインとしての社会における持続性が注視されるようになった。一方、世界ではコンクリート建造物の巨匠といわれるル・コルビュジエの一連の建造物が世界遺産に登録される時代となった。
平常・災害が隣り合わせの日本では、これらを社会資本として持続させるために、構造体レベルでの地震耐力や長期耐久性などへの評価は必須となり、数千年に1度程度あるような超巨大地震に対しても、逃げる必要のない建物を目指すようになりつつある。加えて、使用時の満足度や、災害遺構に関しては多面的な価値の存続を図るなど、社会科学的知見を含む広義の品質・意義を見出す必要性も問われている。
今日、「ものづくり」に加えて「ものづかい」の社会ニーズが高まる中、長寿命化により遺産的価値が認められた建築・土木の建造物は多数存在するようになり、その数は1万を超える規模となった。一方で、本来文化とは、「人が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果」といわれ、衣食住をはじめとする「生活文化」との深い結びつきも生じるようになった。
このように、コンクリート構造物が長期に渡り利用されてきた歴史を辿りつつ、人々との生活文化の関わりを俯瞰する意義が増大している。その手段のひとつに、世の中を体感的に知る観光やツーリズムが存在する。これらは一般に、「ものとサービス全般」の活動が含まれており、「見る・知る」という原体験や、目的に対する「学び」に重点が置かれている。
コンクリート構造物が関わる様々なツーリズムは、素材・材料の製造に始まり、構造物の設計・施工・維持保全、そして解体・再資源化ならびに保存再生の段階など、長期にわたるライフサイクルで生じる人々の生活文化に深く関わりがあり、その多面的な価値は継続的に高められる可能性が秘められている。その様態が明らかになれば、「資本そのものの機能的価値」に加え、「体験がもたらす人々の情緒を引き出す価値」を醸成することに繋がる。その様なコンクリート構造物が持ち得たストーリーは、地元の住民や担い手とともに語られ、観光・ツーリズムを通じて人々の心を動かす伝播力も発揮されるであろう。そして、コンクリート構造物は、長く土地に根付き、生活ならびにコミュニティ形成、更には土地を介したホスピタリティが享受でき、人々の新しい交流や愛着を生み出す拠点になることも想像されよう。
本特集では、今後のコンクリート構造物の新たな文化形成に繋がる、コンクリート・ツーリズムの飛躍と題した全19題の最新の話題が紹介されている。会員皆様と温かい気持ちで共有できれば幸いである。
(コンクリート工学編集委員会)